大温暖化
第2章:氷の牢獄からの解放と、定住の革命
1万2000年前、凍てついていた地球に「春」が訪れた。 長い氷河期が終わりを告げ、数十メートルもの厚さがあった氷が溶け出す。上昇する海面、広がる草原、そして深緑の森。 人類は、獲物を追って移動する「流浪」の民から、豊穣の地を離れない「定住」の民へと、その生き方のOSを書き換えたのである。
海面の上昇は、かつて大陸と繋がっていた「東の果ての岬」を孤立させた。 こうして産声を上げたのが日本列島である。 海という天然の障壁(バリア)に守られたこの島々で、世界でも類を見ないほど早期に、 土器を使いこなす定住社会——縄文文化の幕が上がった。
「煮る」というテクノロジー
縄文土器の登場は、単なる器の制作以上の意味を持っていた。 それは「煮沸」という、過酷な自然界で栄養を効率よく摂取するための高度な化学プラントの獲得であった。 ドングリのあく抜き、骨からの出汁。火と水、そして土器。 この三位一体の技術が、人々を食料危機の恐怖から解放し、1万年以上に及ぶ平和な定住を可能にしたのである。
世界と日本の分水嶺
BC 10,000年。中東の「肥沃な三日月地帯」では、まもなく最初の農耕が始まり、文明へのカウントダウンが始まる。 しかし、日本列島は自らの意思で、農耕という「労働の呪縛」から距離を置き、 豊かな森と海の恵みを循環させる「採集・定住」の道を極めていく。
朝もやに包まれたブナの森。炉から立ち上る煙。 自然を支配するのではなく、そのリズムに自らを同期させる。 「進歩」という名の直線ではなく、「循環」という名の円環。 この時、日本の精神的なプリセットが決定づけられたのである。
氷河期の終わり。それは単なる気候変動ではなく、人類が「どこに身を置くか」を選択した時代であった。 物語はいよいよ、巨大な石を積み上げ、文字を刻む「都市の時代」へと突入していく。
